ジプニーとジプニーの間に人知れず佇むチャリ。
セブに住む某氏が7年前マニラで購入したものだ。
その昔、日本拳法を伝えにフィリピンへと海を渡った侍の一人。
これ以上書くと誰の事かだんだんわかってくるのでこの辺で止めておこう。
彼のアミーゴはスクラップ業者でさえ気が付かないほど背後の壁と同化してしまっている。
セブでバイクに乗っている日本人は多いが、チャリを日ごろの足にしている人はあまり聞いたことがない。
なぜなら、非常に危ない!
自動車天国フィリピン。
チャリはドライバーからするとからすると最もうざいというかゴミ度が高い。
運転中目の前をフラフラされると無性に弾き飛ばしなくなる人も多いだろう。
「2500ペソで購入して修理代に2万ペソ以上かかってますよ。。」
私はこういう話を聞くと心が高揚する。
確実に断捨離とは違う次元ベクトルの独特の生きざまを感じずにはいられない。
「4時間迷って買ったんですが、10分でペダルの根っこが潰れてしもうて。。。」
フィリピンあるある!
「買った店持っていったら200ペソも取られました(怒」
超資本主義国フィリピンでは資本家が常に正義で消費者はただの弱者。
常に買った人間が悪い狐とサルのばかしあい。
だからすべてのアイテムは家電をはじめ、買う前に動作確認テストしなければならない。
特にカゴの部分は完全に役割を終えている。
「もういっそパクられてくれんかなと思ってるんですよ。諦めつくし」
折れたスポーク。
バッグの中にはいつもスパナが二本。
ほぼ毎日のようにどこかが潰れるスリル。
無間地獄なチャリを所有し続ける限り、24時間体制でレスキューしなければならない。
その辺に住むフィリピン人でさえ呆きれるという終末感に包まれる。
なぜそこまでしてこのスクラップ車に固執するのか?
「あのこれ、ナラの木なんですよ」
突然彼の声に力が入った。
フレームのところに木製の板がインストールされている。
日本ではあまり見かけない装置だが、フィリピンでは必須アイテム。
「ここに子供二人乗せて走るんですよ」
「サントニーニョあたりまでなら普通に行きますよ」
このあたりから急に風向きが変わる。
「乗ってみますか?」
乗りたいとか乗りたくないではなく男の流儀として乗るべきだろう。
そういえば10年ぶりのチャリだ。
フィリピンへ渡る前は博多、中洲、東区、西区、南区と広範囲に及ぶ範囲をママチャリで走破した。
日本のチャリ経験は国境を越えてフィリピンという野蛮な土地で通用するのか?
路駐ジプニーと一般車の隙間を逆方向へ進むリスク。
潰れかけのスクラップみたいなチャリにまたがりペダルを漕ぎすすんだ。
1秒後。
ハンドルがガタガタにもげかけているので前輪が左右に踊りだす。
真っ直ぐ走れない。
ブレーキもただの飾りだ!!
運動神経だけは昔から自信があった。
自分にはそれしかなかった。
あらゆる乗り物を乗りこなしてきた歴史。
確固たる自負がある。
遠い昔聞いた乗り手を選ぶチャリ!?
しかし、この高揚感は何だ!?
乗り手をその気にさせるチャリ。
ふふふ、彼こそ唯一その悪魔のチャリに認められた男なのだ。
もう彼はそのチャリから一生降りられないだろう。
中古の日本チャリ買うという彼の夢は叶えられない。
それは彼が一番分かってるはずだ。
物には魂が宿る。
修理という名のチューニングを重ね彼のアミーゴは不思議な魔力を強めてゆくだろう。
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